
2021年から続く医薬品不足は、今も改善の兆しが見えません。
2025年2月現在も相変わらず医薬品の供給が滞り、患者さんや医療現場に大きな影響を与えています。
この事態の解消に向けて政府は、薬機法などの改正案を国会に提出しました。
今回の政府の見解をざっくりまとめると、
• 2021年以降、ジェネリックメーカーの品質不正や業務停止が相次ぎ、供給不足が深刻化した。
• ジェネリックメーカーは、中小企業が多く、1社が多品目を少しずつ製造する「少量多品目体制」が供給不安定の要因とされている。
• そこで政府はメーカーの統合や生産効率化を進めるための基金を創設して、業界再編を進める案を盛り込んだ。
このように、この医薬品不足は、ジェネリック業界の問題が主な原因とされています。
でも本当にそうでしょうか?
現場の薬剤師として実際に医薬品の供給状況を見ていると、それだけが原因ではないように思えます。
ジェネリックだけでなく先発品でも供給不足が相次ぎ、必要な薬が手に入らない状況が続いています。
なぜこのような事態が起きているのでしょうか?
この記事では、医薬品不足の本当の原因について考え、解決策を探ります。
製薬メーカーの「やる気の低下」と経営悪化

ここからは、薬局薬剤師として20年以上現場を見てきた一薬剤師の見解です。
必ずしも正解ではないかもしれませんが、今までの医薬品の流通を見てきた中で、かつてないこの状況の原因を推測します。
私は、医薬品の供給不足が長期化している最大の理由は、製薬メーカーの経営状態が悪化し、在庫を絞りすぎていることにあると考えています。
確かに、ジェネリックメーカーは多品目を少量ずつ製造しているため、生産効率の問題もあるでしょう。
しかし、それだけでは説明がつかないほど、さまざまな薬が供給不足に陥っています。
例えば、ジェネリックが存在しない 「ツイミーグ」や「ラグノスNF経口ゼリー」 などの先発品まで供給が不安定になっています。
これは、単なる後発医薬品メーカーの問題ではなく、日本の製薬業界全体の経営状況が厳しくなっていることを示しています。
利益が出にくい状況の中、製薬メーカーがコスト削減を優先し、 「作る薬を選ぶ」 ようになっているのです。
特に需要の少ない薬や利益率の低い薬は、積極的に製造しようとしなくなっています。
在庫の削減が招いた供給の脆弱化

医薬品メーカーは、コスト削減の一環として 「在庫の最小化」 を進めていると思います。
これは、余計なコストを抑えるための合理的な経営判断かもしれませんが、その結果、ちょっとした需要の変動に対応できなくなっています。
私は現場の薬剤師として、日々医薬品の供給状況を見ています。
その中で強く感じるのは、「製薬メーカーの経営状態の悪化」と「在庫の極端な圧縮」こそが、現在の医薬品不足の本質的な原因ではないかということです。
• 製薬会社の利益率が低下し、経営が厳しくなっている
→ 結果として、不採算の薬は積極的に作らなくなる。
• 在庫を極限まで絞り、無駄なコストを削減しようとする
→ ちょっとした需要増加(例えば風邪やインフルエンザの流行)で供給が追いつかなくなる。
これって、薬局の在庫管理にも似ています。
私たち薬局でも、過剰な在庫を抱えないように調整しながら運営しています。
でも、薬局は最悪「すぐに取り寄せる」ことができます。
一方、製薬メーカーがギリギリの在庫しか持たず、「出荷制限をかけます」となれば、薬局もどうしようもありません。
現に、多くの薬が「出荷調整中」とされていて、発注してもまったく入ってこない状況が続いています。
これは、単なるジェネリックメーカーの問題ではなく、業界全体の「在庫を持たない経営」が根本原因ではないでしょうか?
医薬品不足の根本的な解決策とは?
では、どうすればこの状況を改善できるのか?
私が考える解決策は、「製薬メーカーに一定の在庫を持たせる制度の導入」です。
例えば、
• 各メーカーに年間販売量の1.5倍程度の在庫を義務付ける
• そのための財政的な支援を国が行う(米不足の際の備蓄米のように)
もちろん、在庫を増やせばコストもかかりますし、無駄な廃棄が発生するリスクもあります。
でも、今のように必要な薬が手に入らない状況よりは、ずっとマシではないでしょうか?
製薬メーカーも、「在庫がないんだから仕方ない」という姿勢ではなく、「必要な薬を確実に供給する責任がある」という意識を持ってほしい。
現在、安定供給の実績が薬価に反映される制度が進められていますが、 単に評価するだけではなく、安定供給ができる企業へのインセンティブを強化する ことが重要です。
製薬メーカーが 「利益を確保しながら安定供給を維持できる仕組み」 を作らなければ、経営の厳しい企業はますます撤退してしまいます。
また、単にメーカー同士の統合を進めるのではなく、業界全体で 「どの薬をどのメーカーが安定して作るのか?」 という戦略を持つべきです。
例えば、ある薬の供給が不安定になった場合、すぐに代替メーカーが増産できるような 「生産調整システム」 を構築する必要があります。
まとめ
現在の医薬品不足は、単なるジェネリックメーカーの問題ではなく、 製薬業界全体の経営悪化と在庫削減の方針 によって引き起こされています。
・ 製薬メーカーが利益を確保できず、やる気をなくしている
・ 在庫を絞りすぎて、供給が追いつかない
・ 国の対策は業界再編ばかりで、根本的な解決になっていない
このままでは、今後10年にわたって医薬品不足が続く可能性があります。
国は、 「在庫確保を前提とした財政支援」 を行い、製薬メーカーが 「安定供給を維持しながら利益を確保できる環境」 を作ることが急務です。
医薬品は、人々の命を支える重要なインフラです。
現場の薬剤師として、これ以上「薬が足りません」と患者さんに伝えなければならない状況が続くのは、本当に辛いことです。
医薬品供給の安定化に向けて、より実効性のある対策が求められています。
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